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仙台高等裁判所 平成11年(行コ)5号 判決

主文

一  原判決中、被控訴人株式会社W、同株式会社X及び同株式会社Y建設に関する部分をいずれも取り消す。

二  本件中、控訴人らの被控訴人株式会社W、同株式会社X及び同株式会社Y建設に対する訴えをいずれも仙台地方裁判所に差し戻す。

三  控訴人らの被控訴人株式会社Zに対する控訴を棄却する。

四  第三項の控訴費用は、控訴人らの負担とする。

事実及び理由

第一当事者の求めた裁判

一  控訴人ら

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人株式会社Wは、仙台市に対し、六億二〇三七万二一九九円及びこれに対する平成六年三月一九日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

3  被控訴人株式会社Xは、仙台市に対し、三億七二二二万三三一九円及びこれに対する平成六年三月一九日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

4  被控訴人株式会社Y建設は、仙台市に対し、一億二四〇七万四四三九円及びこれに対する平成六年三月一九日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

5  被控訴人株式会社Zは、仙台市に対し、三億三八八七万三九三八円及びこれに対する平成六年三月三〇日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

6  訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人らの負担とする。

7  仮執行宣言

二  被控訴人ら

1  本件控訴を棄却する。

2  控訴費用は控訴人らの負担とする。

第二事案の概要

本件事案の要旨、争いのない事実等、争点及び争点に対する当事者の主張の骨子は、次のほか、原判決「事実及び理由」欄の「第二 事案の概要」に記載のとおりであるから、これを引用する(ただし、原判決一一頁九行目「(甲三九の一・二)」を削除する。)。

(控訴人らの主張)

控訴人らは、仙台市に代位して、被控訴人Zに対して仙台市が有する不当利得返還請求権を主張するものである。そして、控訴人らが、本件契約三が仙台市と被控訴人Zとの契約と同視しうると主張するのは、土地開発公社が仙台市の依頼を受け土地を取得した場合、仙台市は、その取得価格に利子相当額等を形式的に加算して土地開発公社からこれを取得するという関係にあるから、本件不当利得返還請求において、被控訴人Zの利得と仙台市の損失との間に直接の因果関係が存在することを説明するための表現にすぎない。

(被控訴人Wらの主張)

1  住民訴訟は、個々の権利義務の主体が当事者となる通常の訴訟とは異なり、住民誰もが自己の実体的権利とは関係なく、原告適格が認められるいわゆる客観的訴訟であるから、秘密裡でない通常の行為についても当該行為を知り得たか否かを基準とすると、基準が不明確となって法二四二条二項で期間制限を設けた趣旨を逸脱することになるし、また、議会での質疑や新聞報道などで当該行為の疑惑等が指摘されたことを基準として監査請求を認めることになると、どんなに古い行為であっても新聞報道等で疑惑が指摘された時点から相当期間内に監査請求をすれば正当な理由があることになり、右の期間制限を設けた意味がなくなる。

なお、大年寺山公園用地の売買を住民が知りうる状況になったのは、遅くても仙台市議会において予算・決算報告が審議され、その審議の対象となった予算・決算説明書が一般の閲覧に供され、そして、取得した土地が登記簿及び公用財産台帳に記載されて閲覧が可能になった時である。

2  本件契約一の売買代金は用地国債と通常補助金が使用されたものである。

用地国債は、国が、行為年度(本件では平成二年度)の翌年度以降四か年にわたり、用地費及び利息等の費用を補助金として交付するものであり、年度の繰越しはできない性質のものである。仮に用地国債を本件契約一の売買で執行しなかったとしても年度繰越しができないから国に返還することになり、仙台市の固有財産には変化はない。また、本件契約一の売買で用地国債が執行され、被控訴人Wらに支払われても、その用地費及び利息等の費用は国から交付されるものであるから、仙台市の固有財産に損害は発生しない。したがって、本件契約一の売買代金のうち用地国債の該当部分については、仙台市に損失はない。

また、通常補助金については、補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律に規定されているとおり、当該補助事業以外の用途に使うことを禁じられ、当該補助事業をしないときは、これを国に返還する義務を負うので、用地国債と同様補助金を執行した部分については仙台市の固有財産に損害は発生しないから、同じく通常補助金の該当部分についても、仙台市に損失はない。

(被控訴人Zの主張)

土地開発公社は、公有地拡大法により設立された仙台市とは別個の法人格を有するものであり、土地開発公社と被控訴人Z間の売買契約と土地開発公社と仙台市間の売買契約とは別個独立した契約関係である。したがって、仮に土地開発公社と被控訴人Z間の売買契約が無効であるとしても、仙台市は土地開発公社に対してその無効を主張して売買代金の返還を求めるべきであり、仙台市が被控訴人Zに対して不当利得返還請求権を取得する理由はない。すなわち、仙台市の損失により被控訴人Zが利得したという因果関係は存在しない。

第三当裁判所の判断

一  被控訴人Wらに対する関係

1  控訴人らは、本件契約一及び二が違法、無効であることを前提に、法二四二条の二第一項四号に基づき、仙台市に代位して、本件契約一及び二の相手方である被控訴人Wらに対し、不当利得として売買代金相当額及び遅延損害金の返還を請求しているが、本件契約一は平成三年三月一三日に締結され、その売買代金は同月二九日に全額支払われており、また、本件契約二は平成三年一二月二日に締結され、その売買代金は同月二五日に全額支払われていることは、前記のとおりである。

したがって、被控訴人Wらに対する請求については、控訴人らが本件監査請求をした平成五年一一月二五日の時点では、本件契約一及び二の売買代金の支払時から起算しても、いずれも法二四二条二項本文に規定する一年の監査請求期間を経過していることが明らかである。

そうすると、本件訴えのうち、被控訴人Wらに関する部分は監査請求の期間を徒過したことにつき、法二四二条二項ただし書に規定する「正当な理由」がない限り、適法な監査請求を経たことにはならない。

2  控訴人らに右「正当な理由」があったかどうかについて判断する。

(一) 法二四二条二項本文は、普通地方公共団体の執行機関・職員の財務会計上の行為は、たとえそれが違法・不当なものであったとしても、いつまでも監査請求ないし住民訴訟の対象となり得るとしておくことが法的安定性を損ない好ましくないとして、監査請求をなしうる期間を当該行為のあった日又は終わった日から一年内に制限したものである。しかし、事案によっては、右の趣旨を貫くことが相当でない場合もあるので、同項ただし書は、「正当な理由」があるときは、例外として、当該行為のあった日又は終わった日から一年を経過した後であっても、住民が監査請求をすることができると定めたものである。そして、右のとおり、法が、住民において当該行為があったことを知っていたか否かを問わず、監査請求をなしうる期間を一年という短期間に限定することによって、早期に財務会計上の行為の法的安定性を図ろうとしている趣旨に照らせば、当該行為が秘密裡に行われたため、請求期間経過後初めてその存在が明るみにでた場合のように、期間経過後においても、なお住民の監査請求を認むべき特別の事情がある場合でなければ「正当な理由」があるとすることはできない。

(二) そこで、検討するに、まず、前記争いがない事実に証拠(甲一ないし四、六ないし一一、一二の1、2、一三、一四、二三ないし二六、三〇、三一、三三の1、2、四〇、四一、四四ないし四七、四八の1、2、四九ないし五四、五五の1ないし4、五六、六六の1ないし3、乙一ないし三、四の1ないし5、五の1ないし4、六の1ないし3、七の1ないし5、四二、四三、四五の2、四七、四八、証人大根田清の証言)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。

(1)  控訴人らは、仙台市で弁護士、税理士等の職業を有する市民であり、仙台市の予算の執行状況について一般の住民に先んじてその内容を知りうる公職にある者ではない。

(2)  仙台市は、昭和四五年ころから、史跡景勝の丘陵地帯である大年寺山を公園として整備する計画を有し、当初は大年寺山公園計画の実現のために公園予定地全部を取得するとの方針を決定していた。そして、昭和六三年一一月一一日には、地権者を対象とする右計画についての説明会が開催され、その後も数回にわたり地権者に対する説明会が開催された。その後、仙台市は、平成二年一一月一六日、大年寺山公園について公園区域面積を変更する旨を決定・告示するとともに、買収予定区域を明示した都市計画案を縦覧に供し、同年一二月一四日には大年寺山公園整備事業の認可を得た。

(3)  仙台市は、仙台市公有財産価格審査委員会の審査を経て購入価格を決定した上、大年寺山公園整備事業の公園用地として、平成三年三月一三日、本件土地一について、被控訴人Wらの各持分を一平方メートル当たり一七万円で買い受ける旨の契約を締結した(本件契約一)。なお、売買価格は、被控訴人Wの持分につき五億四二五九万〇八八八円、同Xの持分につき三億二五五五万四五三三円、同Y建設の持分につき一億〇八五一万八一七七円であった。そして、本件土地一について、平成三年三月二六日、仙台市に対し、同月一三日売買を原因とする共有者全員持分全部移転の登記がなされ、さらに、同月二九日、被控訴人Wらに対し右売買代金が全額支払われた。本件土地一は、同月三〇日、仙台市土地台帳に記載された。

また、仙台市は、平成三年一二月二日、本件土地二について、被控訴人Wらの各持分を一平方メートル当たり一八万〇七〇〇円で買い受ける旨の契約を締結した(本件契約二)。なお、売買価格は、被控訴人Wの持分につき七七七八万一三一一円、同Xの持分につき四六六六万八七八六円、同Y建設の持分につき一五五五万六二六二円であった。そして、本件土地二について、平成三年一二月九日、仙台市に対し、平成三年一二月二日売買を原因とする共有者全員持分全部移転の登記がなされ、同月二五日、被控訴人Wらに対し右売買代金が全額支払われた。本件土地二は、平成四年九月三〇日、仙台市土地台帳に記載された。

なお、仙台市は、不動産鑑定士による鑑定評価額を資料として本件契約一及び二の売買価格を決定したが、本件契約一による購入価格は、平成三年三月一日時点での正常価格のおよそ三倍から四・七倍にも達し、また、本件契約二による購入価格は、平成三年一一月一日時点での正常価格のおよそ四・九倍に達するものであった。

(4)  仙台市財産条例では、一万平方メートル以上の土地の取引については市議会の議決に付す旨定められている(甲一六)が、本件土地一及び二の購入については一万平方メートル未満の土地の取引であったため、個別案件として市議会の議決に付されることはなかった。

なお、大年寺山公園整備事業については、仙台市の平成二年度予算説明書において、その一般会計の歳出の部で、土木費の公園造成費の対象事業として、単独事業欄に「風致公園」として「大年寺山公園」と記載され、同年度の決算説明書において、その一般会計の歳出の部で、土木費の公園造成費の対象事業として、補助事業及び単独事業の各欄に「風致公園」として「大年寺山公園」と記載され、さらに、公共用地先行取得事業会計の歳出の部で、公共用地先行取得事業の事業費として「大年寺山公園五二九四・一平方メートル、九〇〇、〇〇〇千円」と記載されているほか、さらに、平成三年度の予算説明書において、その一般会計の歳出の部で、土木費の公園造成費の対象事業として、補助事業欄に「特殊公園」として「大年寺山公園」と記載され、同年度の決算説明書において、その一般会計の歳出の部で、土木費の公園造成費の対象事業として、補助事業及び単独事業の各欄に「特殊公園」として「大年寺山公園」と記載され、公共用地先行取得事業会計の歳出の部には、公共用地先行取得事業の事業費として大年寺山公園についての歳出の記載はないが、一部別会計に移された分について歳入の部に記載されている。そして、これら予算及び決算説明書は一般の閲覧に供された。

以上の事実が認められる。

(三) このように、本件契約一及び二は、都市計画変更決定・告示及び地権者に対する説明会を経た大年寺山公園整備計画の一環として、公衆の縦覧に供されている買収予定区域を明示した都市計画案に基づいて締結されたものであること、本件契約一及び二における売買価格は仙台市公有財産価格審査委員会の審査を経て決定されていること、また、大年寺山公園用地を取得するための事業費は、概括的ではあるが当該年度の予算に計上されて議会の議決を受けて支出されているほか、決算に計上されて議会の承認を受けており、さらに、これら審議の対象となった当該年度の予算及び決算説明書は一般の閲覧に供されていること、仙台市が取得した本件土地一及び二は登記簿及び公有財産台帳に記載されており、これら台帳等は閲覧が可能であったことなどの事実によれば、本件契約一及び二は、その締結から代金の支払に至るまで、所定の手続に従って行われたことが明らかであって、秘密裡になされたものとすることはできない。

しかしながら、控訴人らは、仙台市と被控訴人Wらは、その売買価格が適正な価格をはるかに超える違法若しくは不当なものであることを隠蔽して本件契約一及び二を締結したと主張するものであるが、もし、そのような事実があるとするならば、本件契約一及び二には、売買価格の相当性に関する点が隠蔽されていたということができよう。そして、そのような場合には、本件契約一及び二には、その行為自体が秘密裡になされた場合と同様にその違法性、不当性を判断する上で極めて重要な前提事実が隠されており、その結果として、行為が秘密裡になされたと同様に住民が相当の注意力をもって調査したとしても、監査請求の対象とすることができない状態にあったものというべきである。したがって、本件契約一及び二に右のような事情が認められる場合には、「正当な理由」の有無の判断においては、本件契約一及び二が秘密裡になされた場合と同様に取り扱うべきであり、「正当な理由」の有無は、住民が相当の注意力をもって調査したときに、客観的にみて、売買価格の相当性に関する点が隠蔽されているのではないかとの合理的な疑いを持つことができた時から相当な期間内に監査請求をしたかどうかによって判断すべきである。

(四) そこで、控訴人らは、どの時点で、本件契約一及び二における売買価格の相当性に関する点が隠蔽されているのではないかとの合理的な疑いを持つことができたかについて検討する。

前記争いがない事実に証拠(甲五、一二の1、2、一三ないし一六、五七、六三ないし六五、乙五三、証人横田有史の証言)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。

(1)  仙台市議会議員横田有史は、別件の用地買収について調査していた際に、大年寺山公園の用地買収について問題があるとの情報を得て、仙台市から各年度毎の各購入土地の所在、地積、単価等に関する資料の提出を受けて調査したところ、本件契約一及び二の買収価格の相当性が問題と思われたので、平成五年九月二〇日、仙台市議会の一般質問において、仙台市長に対し、大年寺山公園における調整区域内の用地買収について、平成二年度及び平成三年度の買収価格が平成四年度のそれの四倍に近い異常な高値であったことを質したところ、仙台市は、平成二年度及び平成三年度の大年寺山公園用地の買収価格には疑問があり、現在調査中であることを明らかにした。

(2)  同月二一日、仙台市議会における右質疑の内容が新聞で報道されたが、その内容は、仙台市は、大年寺山公園の用地として仙台市太白区茂ヶ崎の土地を買収したが、平成二年度においては約九四〇〇平方メートルを一平方メートル当たり平均一七万円で、平成三年度においては約一万二九〇〇平方メートルを一平方メートル当たり平均一八万円で購入していたこと、ところが、平成五年三月、これまでの不動産鑑定士二人に代わって、別の不動産鑑定士に改めて土地の評価をしてもらったところ、平成四年度には約一万平方メートルの土地が一平方メートル当たり四万七七四七円で購入できたこと、仙台市では価格が四倍も違うのはおかしいとして当時の不動産鑑定士などから鑑定の内容や購入に至ったいきさつなどを調査している、というものであった。

(3)  仙台市長は、自ら、仙台市監査委員に対し、平成五年一〇月六日、平成二年度及び平成三年度に仙台市及び後記の土地開発公社が取得した大年寺山公園整備事業用地の買取価格が不当に高額なものであるか否か等を監査対象事項とする監査請求を行った。

(4)  控訴人らは、前記新聞報道により、大年寺山公園用地の取得価格に疑いを抱いて、平成五年一〇月八日、仙台市に対し、仙台市情報公開条例により大年寺山公園用地の売買契約書等の開示請求を行ない、同月二二日に開示決定を受けたが、土地の所在、地番、地積、代金額は、右条例の非開示規定に基づき開示されなかった。そこで、控訴人らは、同年一一月一〇日ころまでに、大年寺山の公図、登記簿等を閲覧するなどして疑義のある売買契約がなされた土地の地番などを特定する作業を行った。

(5)  控訴人F、同Gらは、仙台市監査委員に対し、同年一一月二五日、平成二年度と同三年度における大年寺山公園の用地買収につき監査請求を行った(なお、控訴人Fの監査請求書(甲六三)では、監査の対象として、本件土地一及び二の地番、地積、買取価格等が個別的かつ具体的に特定されている。)ところ、仙台市監査委員は、平成六年一月二〇日、本件土地一及び二の買取価格が不当に高額であるおそれも有すると判断するが、その立証・確定はなしえないので措置の勧告(地方自治法二四二条三項)をするまでには至らず、これに代えて仙台市長に対し監査結果に基づく意見(地方自治法一九九条一〇項)を提出した旨を通知した。

以上の事実が認められる。

以上認定した事実、特に、平成五年九月の仙台市議会において大年寺山公園用地の買収価格を問題にした横田議員においても、別件の用地買収の調査過程で得た情報を契機に、仙台市から本件契約一及び二の資料を取り寄せ、その具体的な内容を検討して初めて、本件契約一及び二が不当に高額であるとの疑いが持たれる価格で締結され履行されていた事実を知ることができたというのであり、また、仙台市においても、そのころから平成二年度及び平成三年度の大年寺山公園用地の買収価格には問題があるとして調査を進め、平成五年一〇月六日に、仙台市長自ら、仙台市監査委員に対し、平成二年度及び平成三年度に仙台市及び後記の土地開発公社が取得した大年寺山公園整備事業用地の買取価格が不当に高額なものであるか否か等を対象として監査請求を行っていることに鑑みると、平成五年九月の仙台市議会において、大年寺山公園用地の買収価格の相当性に関する疑いが表面化するまでは、住民らが本件契約一及び二の売買価格の相当性に関する点が隠蔽されているのではないかとの合理的な疑いを持つことは著しく困難であったというべきである。

なるほど、本件契約一及び二は、仙台市公有財産価格審査委員会の審査を経て買収価格が決定されているほか、売買代金は概括的にではあるが仙台市議会の議決を経て支出されるなど、所定の手続に従い公然と行われたものではあるものの、住民において、このような手続の流れの中では売買価格の相当性について疑いを差しはさむ余地はなかったものというべきであり、その一方、本件土地一及び二の購入については個別案件として仙台市議会の議決に付されることがなかった関係上、仙台市議会では本件契約一及び二について具体的に審議されたものではないから、住民らが仙台市議会の審議の経過から本件契約一及び二の買取価格の相当性に疑いを抱くことは不可能に近かったものといわざるをえない。また、平成二年度及び同三年度の予算及び決算説明書には大年寺山公園整備事業に関する記載があり、いずれも住民の閲覧に供されてはいるけれども、それぞれの予算及び決算における事業や事業費の内容等の記載はいずれも概括的なものにすぎず、住民が大年寺山公園の用地取得につき、その買取価格の相当性の点に疑いを抱く端緒となりうる資料としては十分なものとはいえない。

なお、平成二年度の決算説明書には、公共用地先行取得事業会計の歳出の部に、公共用地先行取得事業の事業費として「大年寺山公園五二九四・一平方メートル、九〇〇、〇〇〇千円」との記載があるが、土地の取引価格は、その所在、地番、地積、形状、現況等により左右されるものであることに鑑みると、住民において、右の記載をもとに単純に取得金額を取得面積で除する方法によって、取引価格の相当性に関する点に疑いを抱く端緒となし得たとするのも適切でないというべきである。

以上によれば、住民らが、相当の注意力をもって調査すれば、平成五年九月二〇日に仙台市議会において大年寺山公園用地の売買価格の相当性に関する疑義が取り上げられ、これが翌日新聞報道された時点において、客観的にみて、本件契約一及び二の売買価格の相当性に関する点が隠蔽されているのではないかとの合理的な疑いを持つことができたものというべきである。

(五) そこで、進んで、控訴人らが、右の時点から相当の期間内に本件監査請求をしたといえるかについて検討する。

住民監査請求をするには、その対象となる本件契約一及び二を特定する必要があるが、前記の仙台市議会での質疑及び新聞報道の内容などからだけでは、本件契約一及び二を特定し、その違法若しくは不当な事由を知ることは困難であったというべきである。

ところで、法二四二条二項ただし書の趣旨に鑑みると、控訴人らは、本件契約一及び二の買収価格の相当性に関する疑いを抱くことができたと認められる時から速やかに監査請求をなすべきものであるが、事案の性格からみて、住民が、財務会計上の当該行為を特定し、その違法若しくは不当な事由を調査するための作業には相当の困難を伴うことが考えられ、その作業内容に照らせば、監査請求をするまでにある程度の期間を要することにも無理からぬものがあると認められる場合には、なお相当な期間内になされたものと解することができる。

前記認定のとおり、控訴人らは、少なくとも平成五年九月二一日の新聞報道により、大年寺山公園用地の買収価格の相当性につき疑いを抱き、同年一〇月八日、仙台市情報公開条例に基づき大年寺山公園用地の売買契約書等の開示請求を行ない、同月二二日に開示決定を受けたが、土地の所在、地番、地積、代金額は開示されなかったため、公図、登記簿等を閲覧するなどして大年寺山公園用地の所在、地番等を特定する作業を行い、同年一一月一〇日ころ、ようやく、仙台市が本件土地一及び二を不当ではないかと疑われる高額の代金で購入した事実を確認した上、同月二五日に監査請求をしたものである。このように、控訴人らは、本件契約一及び二の買収価格の相当性に関する点が隠蔽されているのではないかとの合理的な疑いを持つことができた時から二か月余り経過して監査請求を行ったのであるが、本件事案の性格と控訴人らの調査のためにとった作業の内容からすれば、控訴人らが監査請求をするまでに二か月余りの期間を要したとしても無理からぬものがあるというべきである。

(六) そうすると、控訴人らによる本件監査請求は、本件契約一及び二による売買代金の支払日から起算して一年経過後になされたことにつき正当な理由があることになるから、適法な監査請求であるというべきである。

してみると、原判決が、控訴人らの本件監査請求について、同項ただし書の「正当な理由」が認められないとし、被控訴人W、同X及び同Y建設に対する本件訴えを不適法として却下したことは失当といわざるをえず、原判決中被控訴人W、同X及び同Y建設に関する部分は取り消しを免れない。記録によって認められる本件訴訟の経過に照らせば、本件の実体に関する部分、すなわち、本件契約一及び二における違法、無効事由の有無(公序良俗違反の成否等)、不当利得返還請求の当否(損失の有無)などの点についての審理は、被控訴人Wらからの本案前の申立ての当否、すなわち、いわゆる「正当な理由」の有無の判断に必要な限度でなされたものということができるのであるから、更に審理を尽くさせるため、被控訴人W、同X及び同Y建設に対する本件訴えを第一審裁判所に差し戻す必要がある。

二  被控訴人Z関係

1  まず、当事者適格の存否について判断する。

法二四二条の二第一項四号に基づく当該行為の相手方に対する不当利得返還請求は、地方公共団体が有する実体法上の不当利得返還請求権を代位して行使するものである。控訴人らは、本件訴訟において、仙台市は、土地開発公社から本件土地三を買い受けたが、土地開発公社と被控訴人Z間の本件契約三は無効であるから、仙台市は、本件土地三の所有権を取得することができず、その結果、土地開発公社に対して支払った売買代金相当額の損失が生じたと主張し、土地開発公社は仙台市の依頼を受けて本件土地三を先行取得したにすぎないから、本件契約三は実質的にみて仙台市と被控訴人Z間の契約に他ならず、仙台市の損失と被控訴人Zの利得との間には直接の因果関係があるとして、仙台市に代位して被控訴人Zに対し不当利得返還請求権を行使するものであるから、控訴人らは被控訴人Zに対する本件訴えにつき当事者適格を有するものと解され、また、被控訴人Zについても、本件訴訟において、控訴人らにより右不当利得を返還する義務があると主張されている者であるから、当事者適格を有するものと解される。

2  不当利得返還請求の当否について

当裁判所も、本件訴えが適法な訴えであり、控訴人ら主張のとおり本件契約三が公序良俗違反又は錯誤により無効であったとしても、仙台市と土地開発公社との間の本件土地三の売買契約が債権的に有効であることには変わりはない以上、仙台市は被控訴人Zに対して本件契約三の売買代金相当額を不当利得として返還請求しうるものではないと解する。

控訴人らは、土地開発公社は仙台市の依頼を受けて被控訴人Zから本件土地三を先行取得したにすぎず、本件契約三は実質的にみて仙台市と被控訴人Z間の契約に他ならず、仙台市の損失と被控訴人Zの利得との間には直接の因果関係がある旨主張するが、土地開発公社は、公有地拡大法一〇条に基づき設立された、仙台市とは別の法人格を有する特別法人であり(公有地拡大法一一条)、土地開発公社が、被控訴人Zとの間で締結した本件契約三と仙台市との間で締結した本件土地三の売買契約とは別個独立の契約であると解すべきであるから、仙台市が本件土地三を取得するについて土地開発公社との間に控訴人らが主張するような関係が存在するとしても、仙台市の損失と被控訴人Zの利得との因果関係の判断において、本件契約三を仙台市と被控訴人Zとの間の契約であるとしてこれを同一視することは相当ではない。

そして、弁論の全趣旨によれば、仙台市と土地開発公社間の本件土地三の売買契約は有効のまま維持されていることは明らかであり、土地開発公社が本件契約三の無効を原因として本件土地三の所有権を取得できなかった結果として、仙台市が右所有権を取得できない事態が生じたとしても、土地開発公社は仙台市に対し本件土地三の所有権移転義務を負担していると共に、仙台市は土地開発公社に対し売買代金支払義務を負担しているものである。右のとおり、被控訴人Zと土地開発公社間の本件契約三が公序良俗違反又は錯誤により無効であったとしても、被控訴人Zの利得により仙台市が損失を受けたという関係は認められないのであって、仙台市が被控訴人Zに対し、実体法上の不当利得返還請求権を取得するいわれはない。

したがって、その余の点について判断をするまでもなく、控訴人らの被控訴人Zに対する本訴請求は理由がない。

なお、地方自治法二四二条の二第一項四号に基づく財務会計行為の相手方に対する損害補填に関する住民訴訟は、相手方に対して一定額の金員の支払を請求するものであるから、民事訴訟費用等に関する法律(以下「費用法」という。)四条にいう財産権上の請求に係る訴訟とみるほかはなく、その訴額は、原告が「訴えで主張する利益」(費用法四条、民訴法八条、九条)によりこれを算定すべきである。ところで、地方自治法二四二条の二に定める住民訴訟は、住民に対し、違法若しくは不当な財務会計行為等の予防又は是正を裁判所に請求する権能を与え、もって地方財務行政の適正な運営を確保することを目的とし、住民の有する右訴権は、住民全体の利益を保障するために法律によって認められたものであって、その訴訟の原告は、自己の個人的利益のためや地方公共団体そのものの利益のためにではなく、専ら原告を含む住民全体の利益のために、いわば公益の代表者として地方財務行政の適正化を主張するものということができるし、また、損害補填に関する住民訴訟は、これを実質的にみれば、住民としての固有の立場において、財務会計上の違法な行為等に係る職員等に対し損害の返還を請求することが訴訟の中心となっており、この目的を実現するための手段として訴訟技術的配慮から代位請求の形式をとることとされているものと解せられる。このような損害補填に関する住民訴訟の特殊な目的及び性格に鑑みれば、その訴訟の訴額算定の基礎となる「訴えで主張する利益」については、これを実質的に理解し、地方公共団体の損害が回復されることによってその訴えの原告を含む住民全体の受けるべき利益がこれに当たるとみるべきで、このような住民全体が受けるべき利益は、その性質上、勝訴判決によって地方公共団体が直接受ける利益と同一ではありえず、他にその価額を算定する客観的、合理的基準を見出すことも極めて困難であるから、費用法四条二項に準じて、その価額は九五万円とすることが相当である。複数の住民が共同して出訴した場合でも、右訴訟は、住民が法律の規定に基づき地方公共団体の構成員としての資格において住民全体の利益のためにこれを追行するものであることからすれば、各自の「訴えで主張する利益」は共通であると認められるので、その訴額は、民訴法九条一項本文により合算すべきではなく、一括して九五万円とすべきものである。

そして、本件のように、その対象となる財務会計行為(各契約)が複数のものであり、その相手方も複数の場合においても、これら財務会計行為(各契約)は、いずれも大年寺山公園整備事業計画の遂行に伴う用地買収という一定の目的に向けられた一連のものであり、これを一体のものとして捉えることができるものであるところ、控訴人らが本訴で請求する利益は前記のように各請求について共通のものと認められるのであるから、本件についても、前記の場合と同様に取り扱うのが相当である。

したがって、本件訴えの訴額はこれを合算すべきではなく、一括して九五万円として手数料を算出すべきものである。

三  以上により、原判決中、控訴人らの被控訴人W、同X及び同Y建設に対する本件訴えを却下した部分は失当であるからこれを取り消し、本案について更に審理判断を尽くさせるため、右部分を仙台地方裁判所に差し戻すこととする。

なお、原判決は、控訴人らに当事者適格がないとして被控訴人Zに対する訴えを却下したが、控訴人らに当事者適格が認められることは前記のとおりである。したがって、原判決中、被控訴人Zに対する訴えを却下した部分も失当として取り消されるべきであるが、本件では、第一審裁判所における審理の結果、控訴人らの請求は理由がないことが明らかであるから、右請求を棄却したとしても控訴人らの審級の利益を奪うものではない。したがって、あえて右請求を第一審裁判所に差し戻す必要はないと解される。しかし、被控訴人Zに対する請求について請求棄却の判決をすることは、控訴人らの申立ての範囲を超える不利益を控訴人らに課することになるので、本件では控訴棄却の判決をすることにとどめることとする。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 武藤冬士己 裁判官 木下徹信 裁判官 衣笠和彦)

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